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http://www.playonline.com/eq2/tod/tod_c10.html より

大変動編集

「それじゃあなたは“大変動”が始まったとき、その場にいたっていうんですか?」 ヴィンマーは尋ねた。 「おうとも。それも、始まったまさに最初の日にな」 険しい顔をしてダルジェンは言った。

「いったい、あれはどういうものだったんです?」

老ドワーフはかぶりを振った。「面白おかしく話をするようなことじゃねえ。思い出さないほうがいいってモンが、世の中にゃあるんだ」

「お願いです。教えてください!」 若者はせがんだ。「僕はここ、ケイノスの城門の内で育ったんだ。そりゃ“大変動”のとき、街にも大きな被害が出たし、いまに残ってもいるけれど、それ以上のものを僕は知らない。以前会ったテイル・ダルの女性が言ってた。あれが始まったとき、フリーポートでは街全体がこう――」

「そのへんにしてくれ!」 ドワーフはジョッキをテーブルに叩きつけ、ヴィンマーの話を遮った。「お前さん、あれを子どもに聞かせるおとぎ話か何かと勘違いしちゃおらんか? いいか、わしは“大変動”で友人と兄弟をなくしとるんだ。そうとも、お前さんが母ちゃんのスカートに潜って、ビビッておしめにおもらしをしとったとき、外の世界じゃそういう悲劇が起きとったんだ。わかるか? わかったら、その口を閉じてろ小僧」

しばらくの静寂を挟んで、ヴィンマーはもう一度口を開いた。「僕は、父をなくしてます……。父は船乗りでした。“大変動”が始まって海が荒れくるい始めたときに、漂流者の救助に向かった最初の船乗りだったんです。母さんは必死で止めたんだけど、父は……父さんはそれが自分の役目だってきかなくて。そして、海に出たまま父さんは帰ってこなかった」

ダルジェンはしばらく若者の顔を見つめ、やがて先ほどまでとは打って変わったように穏やかな声で話しかけた。「親父さんが亡くなったとき、お前さん歳はいくつだったね?」

「まだ生まれてなかった」 そう若者は答えた。「父の船が消息を絶って1週間ほど経ってから、母さんは僕がお腹にいるのに気づいたそうだよ。日が暮れると母さんは船着場まで歩いていって、海の遠くの方を見ていた。僕が生まれた日までずっと、そうやって父が戻ってくるのを待っていた」

話に耳を傾けながら、ダルジェンはなみなみとエールのそそがれたジョッキを傾け、喉を鳴らした。ジョッキを置くと、ダルジェンは語り始めた。「わしはカラナで暮らしとったよ。ずっと長いこと、ほかの3人の兄弟たちとそこで生計を立てとった」

「畑でも耕してたんですか?」

「ちょっと違うな」 ドワーフは口の端でにやりと笑った。「盗賊をしてたのさ」

「盗賊……ですか」

「ああ、心配せんでいい。お前さんからは盗まんよ。それに盗賊稼業とはとうの昔におさらばしとる。……ま、“ブレル・ブリガンド”とか名乗ってな。これでも当時、わしら兄弟はあたり一帯で恐れられとったもんだよ。ひと気のないような寂しい道に金持ち商人のご一行さまを見つけたときほど、嬉しいもんはなかったぜ。なんせキャラバンの金銀財宝が根こそぎいただけるんだからな」

「それを貧しい者にわけ与えたというわけですか?」

「わかってねえやつだ。せっかく盗んだものを人にやってどうする! わしらはな、盗んだ金を持ってハイキープの賭場にかけ込むのよ。ギャンブルと女は楽しいぞ。片っ端からスッちまって残らなかったが、まあ、なかなかいい暮らしだったな」

「まあ……それはそうと、どんな風に始まったんです? “大変動”は……」

老ドワーフは真顔になり、ごわごわした長い髭をなでながら言った。「わしらは東に向かっておった。ちょうどいけ好かねえハイエルフの金持ちからしこたま盗んでやったあとで、いい気分で旅をしてたのよ。あれが起きたのは、カラナ平原のずっと東のはじっこの、小さな農村にさしかかったあたりだったな。農家とか、牧場なんかがほんの数軒しかないようなところだ。わしらは、そういう連中には手を出さんかった。善良で貧しい者から盗むのはわしらのやり方じゃなかったからな。ともかく、そこらで馬を休ませようとして、あることに気づいてな」

「あることって?」 ヴィンマーは先を急いだ。

「静かすぎたのさ。さっきまでさえずっていた鳥も、家畜も、いきなりだまりこくっちまった。風のほうまで凪いじまって。何かがおかしい。正直なところぶるぶるっときちまったぜ。いったいどうしちまったんだって、わしらは不安で顔を見合わせたよ。その直後だ。今度は動物たちがいっせいに騒ぎ始めた。鳥は金切り声で鳴き、馬は暴れて飛び跳ねた。それから何秒もたたないうちに、地面がとんでもない勢いで揺れ始めた」

ここで、ダルジェンはエールをあおった。老いを感じさせる長く伸びた眉に眼差しは隠れていたものの、そこには深い悲しみの色が宿っているように思えた。

「わしら兄弟も足元をすくわれてひっくり返った。わしらのようなドワーフがひっくり返るほどの震動だ。どんなに凄まじい揺れか、わかるだろう。村の建物が倒壊して、村人は逃げ惑った。地面に亀裂が走ったかと思うと、そいつがどんどん広がってな。動物たちが次々裂け目に飲み込まれていったわい」

「かわいそうに……」

「わしらはかろうじて立ち上がったが、地面の亀裂は広がりに広がり、まともに立っていられる場所はわしらの足元くらいだった。そのとき、“不屈の戦い”の話を思い出したよ。まるでわしらが卑怯者のオークどもになって、ブレル様からお仕置きでも受けているような、そんな心持ちになった。あの日ばかりは、ついにわしらに天罰がくだったかと思ったよ」

「それからどうなったんです?」

「わしらはなんとか走って逃げようとした。わしが一番足が遅かったもんでな。兄弟たちがわしの前を走っておった。ベルジェンとボルメンはもう先のほうに、といっても歩幅にしてほんの15歩かそれくらいだったか、走っておった。そのときだ。突然足元の地面が裂けて、瞬きもしないようなあっという間に2人は裂け目に飲まれちまってた」

老ドワーフが一息つくと、ヴィンマーはそっと視線をはずし、相手の気持ちの昂りが鎮まっていくのをゆっくり待った。かなりのあいだ、ダルジェンは無言のままだった。

「わしらはなんにもできんかった。打ちのめされたよ。次はわしらの番だろうって、残ったキュルネンとへたり込んじまって。周りを見てもよ、すべてがずたずたに引き裂かれちまって。とてもじゃないが信じられるもんじゃなかったよ。そのとき、ハーフリングの一家がわしらの方へ走ってくるのが見えた。小さな女の子もいてな、必死で走っとったよ。だがよ、その子は石にけつまずいて、地面の裂け目に落っこちちまった。『ママ、ママ』と泣いて助けを求めとったよ。かろうじて途中で体が引っかかったものの、いつ真っ逆さまに落下してもおかしくなかった」

「なんてことだ!」 ヴィンマーは思わず声を荒げた。「女の子の両親はどうしたんです?」

「父親も、母親も、子どもを1人ずつ抱えておった。抱いた子どもを守りながら、さらに娘子を助けるのは無理だ。わしはな、考えるより前に体が動いとったよ。キュルネンの腕をつかむと、女の子のほうに駆け寄った。地面にがっと身を投げだして、足首をしっかり握ってろとキュルネンに怒鳴りおいてから、亀裂に向かって身を乗り出した。なんとか女の子の手を掴んで引っ張りあげたよ。それからハーフリングの一家ともども、少しは安全そうな西の方角を目指した」

「村はどうなったんですか?」

「振り返って見たときには、村は跡形もなく消えておったわい。家らしい家なんざ1軒も残っとらんかった。大地は大きく裂けたままで、例の一家の家屋があった場所なんて、まるでちょっとした峡谷みたいになっとった。わしらは、それから何日もケイノスを目指して歩き続けたよ。どこもかしこもひどい有様じゃった。橋は崩れ落ち、道は分断され、多くの者が命を落としとった。だが、それも“大変動”のほんの手始めに過ぎんかったんだな。じきに、よりすさまじい揺れがひっきりなしに起こるようになって。海は荒れくるい、とてもじゃないが航海なんざできなくなっちまった。とにかく荒れた天候が続いた。常に大風が吹き荒れて、ある日は火事、またある日は大雨だ。プリーストの連中がエレメンタルの神々に祈りを捧げたが、神々は応えちゃくれなかった。今でもやつらは祈り続けているが、効き目はないとみえる。だってそうじゃねえか。いまだにノーラスはぐちゃぐちゃのままだ」

「でも……あなたは、その女の子の命の恩人だ。あなたは英雄ですよ」

「はん、なにが英雄だ」 まるで自らをあざけるように、ダルジェンは皮肉な笑みを浮かべてみせた。「ベルジェンとボルメン……わしはてめえの兄弟さえも救えなかったんだ。そんなもん英雄なんかじゃねえよ……」

「そんなことないわ!」 小さな声が背後から聞こえた。ヴィンマーとダルジェンが振り向いてみると、そこには愛らしい顔立ちをしたハーフリングの女性が立っていた。「あなたは、あたしの家族にとって――何よりあたし自身にとって、世界の誰よりもすばらしい英雄よ。あのとき命を賭してまであたしのことを救ってくれた、勇敢なドワーフさんにまた会いたいと、あたしはずっと思っていたのよ」

ダルジェンは驚きに目を見開いていた。小さな来訪者が誰なのか――それは、彼女の言葉から明らかだった。事情を察したヴィンマーは笑顔で言った。「ほらね! 英雄だって言ったでしょう?」

「いやいや」 ドワーフがぶっきらぼうな口調を装って答えた。「わしは飲んだくれの元泥棒ってだけさ。英雄なら他で探してくんな」

「そんなことない」 ハーフリングが言い切った。「あなたは困っている人を見捨てなかった。それは、やっぱり勇敢なことよ。昔なにをしていたかなんて、関係ないの。あなたはあのとき、自分の勇気を、価値を示したじゃない。あたしはこれからも、心からの感謝をささげるわ」 かつての少女はとなりのスツールにようやくのことでよじ登ると、ダルジェンに頬を寄せ、鼻のあたまにキスをした。髭でおおわれた彼の顔には、酒によるものではない赤みがさしたようだった。

「じゃあ、みんなで乾杯だ」 ヴィンマーがバーの主人に酒をたのんだ。「ダルジェンに!」

「ベルジェンとボルメンにも」とダルジェンは付け加えた。

「“大変動”で失われたすべての命に」 ハーフリングも言葉を足した。

3人はこれらの言葉をかみしめるようにうなずくと、静かに杯を口に運んだ。生き延びたすべてのものたちへ向け、感謝の祈りをささげながら――。


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