FANDOM



http://www.playonline.com/eq2/tod/tod_c08.html より

雷雲の到来編集

ウルドゥークは小高い丘の上に立って、南方に広がる草原を見渡した。広大な土地にオークたちの集落が点在しているが、それらを呑み込むようにオーガとオークの大軍団が展開していた。ラロシアン帝国軍の名にふさわしい戦力だった。地上を埋め尽くすほどの大軍団がウルドゥークの号令を待っている。その事実はウルドゥークの自尊心を大いに満足させてくれる。

ウルドゥークは、傍らに控える女オーガの士官に声をかけた。「準備は万端整ったようだな、イグナラ副隊長。明日、全軍をもって砂漠地帯を抜け、フリーポートへ攻撃をかける。フリーポートへ到達次第、街を焦土に変えてやる」

「了解であります、将軍閣下」 女オーガは返答に続いて、ためらうようにある報告をした。「ルジャキアン・ヒルのオークたちから偵察結果の報告があがっております。フリーポートは我々の進軍を察知した様子もなく、いまこれを攻めれば容易に陥落させられるだろうとのこと。ですが……。私にはどうにも腑に落ちないのであります。あのルーカンが、我が軍の接近にまるで気づいてないというのは、あまりに不自然です。あるいは、我が軍を油断させ、誘い込むための罠ではないかと――」

「たわけ!」 ウルドゥークは歯をむき出しにして、不機嫌なうなり声をあげた。「ルーカン・ドレールなど、恐れるに足らん。フリーポートの街を落とすなど、たやすいわ。ガクタと同じようにな。ドレールはオレ様がじきじきに玉座から引きずりおろしてやる。そうだ、忌まわしきカジック・シュールの神殿を制圧してやったときのようにな。心配するな、ラロス・ゼックの御加護がある。勝利は約束されておる。オレ様がこの地上の主となることはラロスに定められた運命だぞ。我が父上の降臨の日まで、オレ様がノーラスの王となるのだ!」

「将軍閣下の……御父上?」 彼女はおそるおそる質した。

「聞くまでもなかろう。オレ様はラロス・ゼックの――“戦王”の子だ。見ろ、この魔剣“ヴェル・アレク”を。この魔剣こそが証拠よ。それとも、イグナラ。オレ様が神の子であることを疑うか?」 ウルドゥークはすらりと剣を抜き、燃えさかる炎のような瞳でイグナラを見すえた。

息をすることも忘れ、イグナラは硬直したままウルドゥークの動きを見守った。いままで何人もの士官が、こうしてウルドゥークの機嫌を損ねて首を刎ねられてきたのだ。

「う、疑うなど、とんでもありません。どうかお許しを、将軍閣下……いえ、我が君」 こわばる体を無理やりねじ曲げるように、彼女は頭を垂れた。「あなた様はまさしくゼックの御子であります」

ウルドゥークが魔剣の柄を握りしめる音が聞こえた。剣が振り下ろされ、首と胴体が生き別れになることをイグナラは半ば覚悟していた。だが、それは起こらず、ウルドゥークは剣を鞘に収めたのだった。

「全軍に宿営の指示を出せ。明日早朝、日の出とともに進軍。ロー砂漠を一気に北上する」

「仰せのままに、将軍閣下。我が軍は一旦、トナレヴを目指すのでありますか?」

「いいや」 ウルドゥークは言った。「アシェン・オーダーの砦を包囲するなぞ、時間と兵力の無駄だ。あれは素通りすればいい。フリーポートを陥落させたあとで、ゆっくりと時間をかけてルジャキアンのオークどもにでも攻めさせればいい」

イグナラは了解のしるしにうなずいた。これ以上、反問する愚をおかす気にはなれなかった。内心では、彼女はアシェン・オーダーのモンクたちの戦力を軽視することに危うさを覚えていたのだが――。「仰せのままに、全軍に通達いたします。我が君」 敬礼をすると、彼女は丘を駈け下っていった。

いま1度ウルドゥークは全軍の威容を丘の上から眺めた。眼下の大軍と同じように、大陸の西域に集結したラロシアンの大軍団も、これから始まる侵攻に備えていることだろう。「もうすぐだ……」 誰にともなくウルドゥークはつぶやいた。「そう、もうすぐ地上のすべてがオレ様のものになる」


ケイノスにて――。 「敵軍が近づいてるぞ!」 城門が見えてくるなり、ハーフリングのニフェットは声を張りあげた。城門の前でもう一度叫ぶ。「敵軍の襲来だァ!」

ニフェットの乗馬はギャロップのまま城門をくぐり抜けたが、ニフェットは見事な手綱さばきで馬を急停止させた。馬の背から飛び降りると、さらに彼は大声で叫んだ。「ラロシアン軍がもうそこまで押し寄せてきてるぞォ!」

騒ぎを聞きつけて集まってきたガードたちが、ニフェットを取り囲んだ。「何者だ。姓名と身分を名乗れ!」 ガードの隊長が要求した。

「オイラはシュアフォールから来たニフェット。オイラはカラナ平原で見張り役を務めてたんだ。邪悪な軍勢が草原を横切ったら、至急こうして報告をしろって命じられてたのさ」

「命じられた? 誰に命じられたというのだ?」 隊長はいぶかしげに尋ねた。

「それを命じたのは、私だ」 後ろのほうから、何者かの声がかけられた。

あわてて隊長は背後を振り向いた。そこには1人のレンジャーの男が立っていた。そのレンジャーは深い緑色のチェインメイルに身を包み、魔法の文様が刻まれた弓を背に吊っていた。男のベルトのバックルにあしらわれた印章は“雨の守護者”のシンボルだった。

「アバター様」 男の姿を認めてハーフリングがひざまずいた。「アバター様の仰ったとおりの事が起きちまったよ」

「顔を上げるんだニフェット。そして君が見たことを教えておくれ」

ニフェットは立ち上がり、興奮気味にまくしたてた。「オイラ、古い見張り塔の1つにキャンプを張って、ずっと草原を見張ってたんだ。そしたら……地平線の向こうから、真っ黒な影がせり上がってきたんだ! 最初、どこかの山脈が動き出して近づいてるのかと思った。でも、違った。東のほうからはジャイアントの軍団が、南からはオーガとオーガの奴隷にされたノールたちの大軍が移動してた。ものすごい数。ものすごい、ものすごい数だったよ!」

「なるほど……。よく報告してくれた。私が北のほうに派遣していた偵察役からも、報告がきている。ブラックバロウはいまやオークたちに占領されていて、そこを通り抜けてオークたちが進軍を開始したそうだ。どうやらラロシアン軍団は本格的にケイノスへの攻撃を開始するつもりのようだ」

やりとりを聞いていたガードの隊長が深々とうなずいて言った。「ベイル卿から話は伺っておりました。アバター殿、あなたが我々を導いてくださるのですね。ケイノス軍はすでに街を守る戦いに備えております。どうか、ご指示を」

「よろしい」 レンジャーは言った。「すべての城門を閉ざして、部隊を配備につかせるように。私は時間稼ぎをやってみるとしよう」

「時間稼ぎ……それはどういう?」 隊長は不思議そうに尋ねた。

レンジャーの男は首にかけていたペンダントを手に取ると、小声で呪文のようなものをつぶやいた。それに反応してペンダントにはめこまれた青い宝石が輝きだした。同時に、遠くの空で雷鳴が轟いた。

「平原の空に、雷雨を喚んだ。これで敵軍の侵攻を少しは遅らせることができる。ただし、時間稼ぎ以上のものではない。いまのうちに迎撃の態勢を整えるのだ」

「閉門すべての城門を封鎖しろ!」 隊長は大声で部下たちに指示を飛ばした。鎖が巻き取られ、ゆっくりと巨大な城門が閉ざされていく。それを見届けるまでもなく、隊長は次々と新しい指示を出していった。

「でもアバター様。奴ら、ものすごい、ものすごい大軍だった……」 不安そうにニフェットがレンジャーの傍らに寄った。「あんな大軍相手に持ちこたえられるの……?」

彼は何も答えようとはしなかった。そうしているあいだにも、雷鳴は街から遠くない場所まで迫っていた。


――おのれ!

それは怨嗟の声だった。

――おのれ、なんという背信!

それは、暗黒の中でぐるぐると渦巻いていた。永劫のような長きにわたって、それは閉じこめられていた。形もなく、際限もない暗黒。そしてひどく冷たい空間だった。

我が存在を忘れたというのか。いいや、忘れさせやしない。彼の子らを害した者の末路を必ず教えてやろう。

闇の儀式はいまや成れり。彼よりの贈り物は封をきられた。これより復讐のときが始まるのだ。

――冒涜者め! 汝らには真の“恐怖”を味わわせよう。時の果てに至るまで!

それは、ゆっくりと暗黒から這い出た。波打つように、転がるように。蠢き、かさを増しながらそれは進んでいく。

――彼の贈り物が汝らを探し出すぞ。汝らすべてに報いを与えるまで!

神殿内の湿った空気の中に、緑色の雲のようなものが立ち現れた。それは回廊を這い進んでいった。はじめはゆっくりと、やがてその速度を増して。それはほどなくして、最初の獲物に手を伸ばすだろう。

――おのれ!

それはまた喚いた。

――いまこそ思い知るがいい!

それは邪悪な笑みを浮かべたことだろう。もし、それが貌を備えていたならば……。


広告ブロッカーが検出されました。


広告収入で運営されている無料サイトWikiaでは、このたび広告ブロッカーをご利用の方向けの変更が加わりました。

広告ブロッカーが改変されている場合、Wikiaにアクセスしていただくことができなくなっています。カスタム広告ブロッカーを解除してご利用ください。

FANDOMでも見てみる

おまかせWiki