Fandom

エバークエスト2 Wiki

運命の書 第五章

17,147このwikiaの
ページ数
新しいページをつくる
トーク0 シェアする


http://www.playonline.com/eq2/tod/tod_c05.html より

戦乱の前夜編集

そのレンジャーは無音で勾配のきつい岩山の斜面を駆けていた。小石ひとつ転がることはなく、小枝ひとつ踏みしだかれることもなく。その滑らかさは、あたかも山の自然そのものが彼を運んでいるかのような錯覚を見る者に与えるほどだった。――見ている者がいたとしてのことだが。 一方、岩山の頂といえる場所では1人のモンクが静かに座禅を続けていた。彼は西にカラナ平原を、東にコモンランドを望み、ひたすらに物思いに沈んでいるようだった。そのモンクの背後に現れ出たレンジャーは、物音を立てぬまま近寄った。

「よくおいでなさった“雷雨”のアバター殿。そちらの準備は整ったのかな?」 モンクは背中に目でもついているかのように、平然とレンジャーに声をかけた。

レンジャーは歩みを止め、破顔した。「シュアフォールのレンジャーたちは、いつでも動ける状態です。ナイツ・オブ・サンダーはまだ集結中といったところでしょうか。にしても……驚いたな。俺の接近する音を聴き取るなんて」

「耳で聴いたわけではないよ。あなたの軽やかな身のこなしは完璧だったとも。カラナ様の目にくるいはなかったというわけだ」

「どうだろう……。俺はいまだに、本当に俺で良かったのかと思い悩むことがある」 レンジャーはわずかに面を伏せた。「まるで、きのうのことのように思い出せる。俺は嵐で遭難し、奇跡的にプレイン・オブ・ストームの洞窟に流れ着いた。故郷に帰れぬまま俺はそこで離郷者アスクル(Askr the Lost)と呼ばれるようになった。我が神カラナはどうして俺のような者を選ばれたのだろうか……」

モンクは座禅をとくと、レンジャーと向かい合った。「こんなにも心配事の種が尽きないと、そうやってなんでも思い悩んでしまいがちだ。だが“雷雨”のアバター殿。わしがクェリアス様の絶対の英知を信じるように、あなたも主であるカラナ神の選択を信じるべきではないかな? 過去がどうあれ、いまのあなたはアバター・オブ・ストーム(Avatar of Storm)であり、神の代理人なのだから」

レンジャーは深くうなずいた。「あなたの仰るとおりだ。俺は、自分の信仰の弱さが恥ずかしい……。いずれ定められたときがきたら、そのときこそ運命を信じて全力で事に立ち向かうことを約束します」

その言葉を聞いたモンクは微笑んだ。「心強い言葉だ、友よ。ともに、きたるべき困難に力を合わせて立ち向かおうではないか」

「ええ。――それで、あなたのほうの状況は? フリーポートの防備は整ったのでしょうか?」

モンクの眉根に小さなしわが寄った。「人数こそ頼めないものの、ナイツ・オブ・トゥルースの騎士たちが街を護るために戻ってきてくれる。あれらは頼もしい戦力だ。翻って、アッシェン・オーダーのほうをとりまとめるのには、ずいぶんと苦労をした。内輪もめもあって、多くの者が砂漠の砦で街との交流を絶とうとしていたのだが、説得してなんとか思いとどまらせることができた。だが……街そのもののほうは、事前の予想どおり、かんばしくない状況だ。かの覇王はフリーポートを脅かすほどの危機が迫っていることを信じようとせず、わしの忠告にもまったく耳を貸してくれなんだ。まあしかし、現実に脅威が身近に迫れば、覇王とて防衛のために重い腰をあげざるを得ぬだろうが」

話を聞いてレンジャーは何度もうなずいた。「こちらも同じです。ケイノスを治めるベイル家も、あまりいい反応をみせていない。ラロシアン帝国が再び興って侵略を開始しているというのに、彼らはどんなに証拠を突きつけられてもそれを認めようとしない……」

「王や独裁者とは、そういうものらしい。彼らは己に都合の悪いものが見えないのだ」 モンクはしみじみとつぶやいた。「だが彼らとて、いずれ目の前に迫った脅威を無視できなくなる。そして、そのときはもはや遠い先のことではないのだ」

「ええ。北の地のオークたちが、いずれ動き出すでしょう。オークたちの大規模な侵攻にあって、ハラスの街がいつまでも持ちこたえられるとは思えない」

「同じようにガクタも、無事ではすまぬだろうな。かねてからフロッグロックを敵視しておったオーガたちのことだ。まっさきにガクタへ攻め込み、街を占領しようとするだろう。だが、フロッグロックたちはマーに約束された地と信じるあの街を去るなど思いもよらぬらしい」

レンジャーは山の頂から、眼下の世界を眺めた。遙かに霞む地平線は、アントニカ大陸全土の広がりを描いているのだ。そして、この大陸はまもなく血と混乱の雲に覆われようとしている――。彼はため息をつき、目を伏せた。「これから起こる戦乱で、いったいどれほどの命が失われるだろうか。本当に、ほかにみちはないものか……」

モンクはしばしの沈黙の後に、口を開いた。「ほかのみちがあればと、わしも思うよ。だが、避けることはできんのだ。不和の領界(Realm of Discord)への扉が閉ざされたとはいえ、その影響はまだ強くノーラスの地を包んでいる。いずれは世界の均衡が回復し、この“戦乱の時代”も終わるだろうが、そのためにはとてつもなく大きな代償を払う必要がある。そして我ら2人の使命は、2つの都を永らえさせること。やがてくる暗黒時代に、2つの都のそれぞれ異なる力が必要とされているのだから」

向かい合ったモンクの悲哀に満ちた心のうちが、レンジャーには痛いほどよくわかっていた。「課せられた使命であるなら、きっとやり遂げてみせましょう。ただ……。できるなら、もっと多くの人々を救いたかった」

モンクは静かに目を閉じた。沈黙の時間が流れた。眠るような瞑想の中でモンクが何を想うのか、レンジャーは知りたいと思った。お互いに黙りこくり、あたりは静寂に包まれた。どれほど経ったときか、ようやくモンクが口を開いた。

「この音に耳をそばだて、それを心に刻んでおくことだ」

「この音とは?」

「静寂という名の調べだ。ふたたび耳にすることはかなわぬようになるだろう」 そう言い残すと、モンクはレンジャーに背を向けた。ゆっくりとした足取りで岩肌を踏みしめ、麓へ下りていく。

モンクの後ろ姿を見送ると、レンジャーはふたたび岩山のもっとも高い足場から世界を見下ろした。ひたすら静かだった。だが、この静寂はやがて、怒号と悲鳴にかき消されることを彼は知っていた――。


広告ブロッカーが検出されました。


広告収入で運営されている無料サイトWikiaでは、このたび広告ブロッカーをご利用の方向けの変更が加わりました。

広告ブロッカーが改変されている場合、Wikiaにアクセスしていただくことができなくなっています。カスタム広告ブロッカーを解除してご利用ください。

Fandomでも見てみる

おまかせWikia