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運命の書 第九章

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http://www.playonline.com/eq2/tod/tod_c09.html より

不屈の戦い編集

レンジャーの首で、ペンダントの宝石はいよいよ青い炎のような光芒を放った。レンジャーが上空からいかずちを落とすと、それに打たれてオークやオーガたちが倒れた。彼はそれに続いて、進軍してくる敵の隊列に向けて、矢を射た。ラロシアン帝国軍の獰猛な兵士たちが1人また1人と矢の餌食になっていった。 それすら焼け石に水であることを男はわきまえていた。

ケイノスを攻める敵軍の戦力は、あまりに圧倒的だった。雷鳴をものともせず、ラロシアン軍は城壁に迫ってくる。東から進軍してきたジャイアントたちは巨岩を持ち上げ、城壁に向かって投げつけてきた。必死の防戦にもかかわらず、城門を抜かれるのは時間の問題であるように思われた。

レンジャーは配下の弓兵たちに、ジャイアントたちへ攻撃を集中するよう命じたが、屈強な巨人たちは多少の矢を受けてもびくともしない。無論、敵はジャイアントだけではない。それらの足下で群れをなしているオークたちも、厄介な敵だった。後から後から、無数とも思えるオークたちが攻め寄せてくる。

「ケイノスのために!」 男の呼号に応えて、城門を守る兵士たちが雄叫びを上げた。兵士たちはこれ以上ないほど勇敢に奮戦している。それは男にもよくわかっていた。

「何のためでもなく!」 ケイノスであがった雄叫びを打ち消すように、ラロシアンの陣から、鋭く空気を裂くような声が響いた。はっとしてレンジャーは顔を上げた。城壁に攻撃を加えていたジャイアントたちがさっと左右に分かれた。その背後に、何者かが現れた。オークやオーガたちはその者をまぶしそうに見上げている。それは、燃えさかる炎そのものが生命を得て動き出したかと思える、巨大な人影だった。

異形の出現に、ニフェットが主であるレンジャーの側に身を寄せ、ささやいた。「アバター様。あいつは何者なんで?」

レンジャーはそれが容易ならざる相手であることを知っていた。「あれは……アバター・オブ・フレイム(Avatar of Flame)。ソルセック・ローの使徒だ」

「へえ。でもアバター様の敵じゃない……ですよね?」 どこか不安そうな調子を隠せずにハーフリングは尋ねた。

腰の剣を引き抜き、レンジャーは大声で指示を出した。「引き続きジャイアントに攻撃を集中。城門を死守しろ!」 兵士たちにそれだけ伝えると男は城壁から身を躍らせて敵の正面に降り立った。そのまま剣を閃かせてオークたちを文字どおり薙ぎ払いながら、炎の化身へと突進していった。


「フリーポート・ミリティアは後退を始めました、将軍閣下。ほどなくフリーポート市街の制圧に移れるかと」

この報告を耳にしてウルドゥークはにやりと笑った。「オレ様の言ったとおりだったろう、イグナラ。この分なら、日暮れまでにはルーカンめの首級を挙げられそうではないか」

ウルドゥークはぐるりと戦場を見渡した。あらゆる場所で、彼の軍はフリーポート軍を圧倒していた。数においても、士気においても。

「フフ。すばらしい」 思わず彼はそう口に出してつぶやいていた。

「……実に、すばらしい」 何者かが、そしてウルドゥークにとって聞き覚えのある声がそう言った。ウルドゥークが振り向くと、そこに分厚く重量感のある影がたたずんでいた。

「アバター!」 その存在の不意の出現に、ウルドゥークは大きな声を出していた。「もしや、オレ様の勝利の瞬間を見届けにここへ?」

「フム。貴様はここまでのところ、よくやっておるな、ウルドゥーク。貴様の手腕によって地上にかくも混沌がもたらされたことは、じつに喜ばしい。この勢いで、貴様の軍勢が他の大陸にも破壊と殺りくをもたらすことを期待しておるぞ」

「もちろん、こんなのは序章だ。アントニカ全土を制圧したあかつきには、次はフェイドワー大陸あたりを――」

「将軍閣下!」 イグナラの叫び声がウルドゥークの言葉を遮った。「南側に配置された部隊が、攻撃を受けております!」

突然の報告を受けてウルドゥークは南に広がる砂漠地帯に目を転じた。砂煙の向こう側で、少数でありながら精強な集団がラロシアン軍の一翼を切り崩しているのが見てとれた。

「そうか。いまいましいモンクどもが、手出ししてきおったか!」 怒りの色もあらわにウルドゥークは言葉を吐き捨てた。

「あのモンクどもの兵力はなぜ、ここまで放置されておったのだ?」 冷たい声でアバターは問いかけた。「“静穏”の使徒があのモンクどもを率いる以上、奴らは決して侮れぬというのに」

「オレ様はモンクどもを皆殺しにするよう命令してたのだ。悪いのは、命令無視をしたどこかの無能な副隊長だ。――むろん、そいつにはいまこの場で無能の報いを受けてもらうが」 ウルドゥークは剣を抜いて、イグナラに詰め寄った。

「お待ちください、将軍閣下!」 イグナラがうわずった声で叫んでいた。「南の方向から、さらに別な何かが接近してきます!」

彼女の目線を追ってウルドゥークはすばやく振り向いた。砂漠の上を、重量感をともなった雲のような奇妙な何かが移動している。その動きに合わせて、上空が濃い緑色のもやで覆われていく。

「ウルドゥーク、貴様。何をやらかしたのだ?」 アバターは怒気を含んだ声で詰問した。「あの力を解放したのは貴様なのだな、ウルドゥーク!」

雲のようなものは急速にラロシアン軍に追いすがってきた。それが軍勢の端に到達したとき、恐ろしいことが起きた。雲状のものに触れたオーガたちが片端から、絶命して倒れていったのだ。オーガたちは、息をしようとあがく素振りを見せたかと思うと、次の瞬間には屍となって地面に転がっていた。

「オレ様の馬はどこだ!?」 ウルドゥークは大声で叫んだ。「ゼックの御子であるオレ様がこんなところで倒れてたまるか。馬だ。誰か、オレ様の戦馬を引いてこい!」

その大音声に応える者はいなかった。いまや、死の霧は周囲のオーガたちを殺し尽くし、ウルドゥークを取り囲んでいた。横でイグナラが空気を求めてもがいていたが、すぐに彼女も絶命した。

「……愚かな!」 心底いまいましそうにアバター・オブ・ウォーがウルドゥークを罵った。「悪いのは貴様だ。貴様が同胞を死に追いやってしまったのだ! ええい、こうなったらオークたちが頼りだ。邪魔なモンクどもは私が自ら手を下すほかあるまい!」 アバターの巨体はウルドゥークのそばを離れ、オークの軍列へと向かっていった。

ただ独り取り残されたウルドゥークに死の霧が迫った。もはや、逃れるすべはなかった。緑色の霧にむかってウルドゥークはやみくもに剣で斬りつけたが、それも無駄なことだった。

霧の中からウルドゥークに呼びかける声があった。

――冒涜者よ! 汝の大罪をあがなうときがきた!

「貴様……な、何者だ!?」 何度も言葉を詰まらせながらウルドゥークは姿のないものに問いかけた。

――これは汝によって裏切られたものの声。汝の驕りが、汝の同胞を破滅させたと知れ。そうだ、いにしえの故事が繰り返されるのだ。だが、こたびの汝らは我によって罰される。

「裏切り? 何かの間違いだ!」 冷静さを失い、ただやみくもに剣を振り回してウルドゥークは叫ぶ。

――いいや、裏切った。“恐怖”の子らは汝らの同盟者であり得た。しかし汝は我が神殿に許しもなくあがり、我が眷属を奴隷におとしめた。その傲慢が、汝らを滅ぼしたと知れ。そして冒涜者よ。汝の罪は汝の死をもってしてもあがなえぬ。汝は我が“恐怖”を永劫にわたって味わうのだ!

「いやだ!」 ウルドゥークの悲痛な叫びは空しく霧の中に吸い込まれた。緑の霧がウルドゥークの体を包み、肺の中にまで入り込んで呼吸を奪った。助けを求めてあたりを見回しても、あるのは同胞の屍の山ばかりだった。無敵だったはずのオーガの軍団が、あまりにも唐突で無惨な最期を迎えていた。

霧が凝集したかと思うと、ウルドゥークを宙に持ち上げた。ウルドゥークは眼下に、ねじくれて横たわる己の屍を見た。泣き叫ぼうとしても、もはや彼は声をもたない存在になっていた。霧は、はるか南に待つ暗黒の淵へとウルドゥークの魂を運んでいった。


奇妙な霧がひいていったとき、ケイノス軍は歓喜の雄叫びをあげた。霧に覆われていたオーガの兵士たちがことごとく絶命していることを知ったのだ。

また1人、オークの兵士を倒し、アイマーラは横で戦っている夫のマーベックに声をかけた。「あの得体の知れない雲のおかげで敵の半分は片づいたわ。あとはオークとジャイアントとゴブリンだけよ!」

「ああ。ハラスの戦士にとっちゃ朝飯前だ。さっさと片づけちまおうぜ!」 マーベックは勇ましく応じた。

アイマーラは豪快に笑いながら剣を振るった。彼女は戦いの高揚感を覚える一方で、敵の半数近くが壊滅してなお味方の劣勢は覆っていないという事実を冷静に認識してもいた。いまオークたちは隊列を崩し、突然のオーガたちの全滅に困惑していた。けれど兵力の上ではオークたちだけでもケイノス軍を上回っている。時間が経てばオークたちもその事実に気づき、統制を取り戻して進軍を再開するだろう。

アイマーラは戦場の様子を冷静に観察した。アバター・オブ・フレイムがオークたちを指揮し、混乱していたラロシアン軍を立て直している。アバター・オブ・フレイムの指示でジャイアントたちが陣地を固めていた。やがてアバターが手を振って合図をすると、突如として炎に全身を包まれたノールたちが飛び出し、ケイノス軍の陣地に飛び込んできた。

「トライビューナルよ!」 マーベックが仰天して叫んだ。「なんてことを。あいつ、ノールどもに火をつけて、生きた城攻め道具にしやがった!」

ノールたちは炎に灼かれてきゃんきゃんと喚きながら死にものぐるいでケイノス軍に突進してくる。残酷な戦術が確実にその効果を発揮し、じりじりとケイノス軍は後退を余儀なくされた。

そのときだった。地の底から声が轟いた。「もはや見過ごせぬ!」 声は、雷鳴すら色を失うほどの轟音となって響き渡った。「ブレルの子らへの非道な仕打ち、その報いを受けるがいい!」

地の底から轟いた声に、両軍の動きがしばし止まった。大地そのものが、すべての土や岩が喋っているかのようだった。

「いったい何者だ?」 アバター・オブ・フレイムの声が空気を震わせた。

「我が何者か? ブレルの敵に報いを与えるものだ。ブレルの子らの領地を侵し、略奪したものたちに報いを与えよう!」 大地の声は告げた。「欲に取りつかれてお前たちは、世界のすべてを我が物顔で奪い、傷つけた。今度は奪い傷つけられる側になってみるがいい!」

声の宣告と同時に大地が軋み、ラロシアン軍の足下で巨大な裂け目が口を開けた。オークたちはなすすべもなく、絶叫しながら地の底へ落ちていった。彼らの叫びを遮るように大地の亀裂がひとりでに合わさり、オークたちを完全に地底に生き埋めにしてしまった。こうして、怒りくるう大地によって次々とオークたちが呑みこまれていった。

「落ち着け!」 アバター・オブ・フレイムは、慌てふためき隊列を崩して敗走を始めている兵士たちを叱咤した。「とどまれ、陣地を死守しろ。これは命令だ!」

この機を捉え、レンジャーはほど近い尾根に待機させていた騎士たちに合図を送った。騎士たちは尾根を駈け降り、あっというまに炎の化身を包囲した。「いまだ。全力でこの者を倒すのだ!」 レンジャーは命じた。


「フン。アバター・オブ・ビロウ(Avatar of Below)によって戦局が覆ったと考えているようだな、モンクよ。いいだろう、ゼックの力が無敵であることを思い知らせてやろう!」

モンクは拳を固く握り、巨大な黒い影のまわりを円を描くように移動した。彼は静かに告げた。「傲慢と無知が、お前たちの軍を自滅させた。ウルドゥークというオーガは愚かにもカジック・シュールの神殿を冒し、アバター・オブ・フィアー(Avatar of Fear)の怒りを買った。またノールたちを奴隷にしたことでブレルの怒りに触れ、オークどもは大地に呑まれた。あとは、お前を倒すことですべての決着がつくだろう」


「たわごとを! こと戦いにおいて、私を凌駕できると思うか!」 アバター・オブ・ウォーは炎の剣を構えた。「たとえ全軍が壊滅したとしても、せめて貴様を血祭りにあげてやらねば気が済まぬ!」

音もなくモンクが跳んだ。強烈な蹴りをあびせ、アバター・オブ・ウォーをよろめかせる。アバターの反撃の剣は虚空を斬った。その動作によって生じた隙をつき、モンクの拳が繰り出される。

両アバターの力が激しくぶつかり合った。相克する2つのプレインの力が衝突し、せめぎ合った。2人の足下の地面が見えない力によってせり上がり、小高い丘を形作った。丘の周囲ではいまなお、アシェン・オーダーとナイツ・オブ・トゥルースがラロシアン軍の生き残りと戦いを繰り広げていた。そこへ、城壁に取りついていたオークたちを駆逐し終えたフリーポート・ミリティア軍が駆けつけた。ミリティア軍の先頭では、暗い色の鎧に身を包み兜をかぶった人物がミリティア兵たちを率いていた。


騎士たちが炎の化身に剣を浴びせる。それを援護するようにレンジャーが嵐を喚んでアバター・オブ・フレイムにぶつけた。相手はダメージを受けていたが、それでも激しい怒りにまかせて強力な反撃を続けている。

戦いながらレンジャーは周囲の光景に目をやっていた。生き残りのオークたちの大部分は北へ向かって敗走していた。だが、何カ所かで陣地に踏みとどまり、抵抗を続ける敵も残っていた。バーバリアンたちとオークのうちでも屈強な部族の兵たちが激戦を繰り広げている。

「愚かな騎士たちめ。剣を捨てろ! そうすれば、そこのレンジャーが隠している真実を貴様らに教えてやる!」 アバター・オブ・フレイムが喚いた。


「そんな言葉に誰が乗るものか!」 騎士団の長が叫んだ。「いまこそ滅べ。もとの闇に還れ!」 言葉とともに騎士の剣が深々とアバターの胸を貫いていた。アバターはその場に膝をつき、全身から無数の小さな炎をまき散らした。

「愚か者どもめ!」 弱々しい声でアバターは毒づいた。「これで勝利したなどと思うな。真の災厄はこれから始まるのだぞ……!」 その言葉を最期に、炎の化身はくずおれ、消滅した。あとに残ったのは、わずかな燃えかすの灰ばかりだった。

敵の最期を見届けると、レンジャーはペンダントに手をやった。それに呼応して、すぐに上空の雷雲は引き、空は晴れ渡った。

「アバター殿。いましがたの、あやつの言葉の意味はいったい……?」 騎士団の長が尋ねた。「真の災厄とは、何を指していたのでしょうか?」

レンジャーはその問いに答えを与えようとはしなかった。かわりに、するりと腰の剣を抜いた。剣の刀身には、古代のルーンが刻まれていた。「貴方の働きへの感謝のしるしに、これを。雷鳴の剣“メイルシュトロム”。きっと貴方の役に立つだろう」

騎士に剣を手渡すとレンジャーはきびすを返した。そして、ゆっくりとケイノスの城門へ向かった。無数に転がる屍をよけながら――。


モンクは渾身の力を込め、最後の一撃を放った。アバター・オブ・ウォーの巨体はどうと地に伏し、それきり動かなくなった。モンクは戦いで負った深手を癒すため、その場で地に片膝をつき、傷を塞いでいった。

そのとき漆黒の馬にまたがった黒い鎧の騎士が、アバター同士の決闘の舞台となった丘の頂に姿を見せた。騎士は馬を降り、倒れ伏したアバター・オブ・ウォーのもとに歩み寄って死者の腕を持ち上げた。そこには刀身に魔炎をまとわせた剣があった。黒い鎧の騎士がその剣を手に取った。

「ドレール卿!」 傍らのモンクがそれを制止しようと声をあげた。「その剣は貴方のものではない!」

覇王はゆったりとした動作で兜をぬぎ、薄笑いを浮かべた顔を外気にさらした。その顔には一条の深い傷痕が刻まれていた。「この剣はまちがいなく余のものとなった」 覇王は宣言する。「魔剣“ソウルファイヤー”。長い時を経てようやくこの剣は相応しき主の手に収まったのだ。貴様には礼を言っておこう。剣を我が手にもたらし、それだけでなくフリーポートの真の敵を引きずり出してくれたのだからな」

「真の敵? 何を言って――」

ルーカンは丘の端まで歩を進めると、眼下のミリティア兵たちに向かって声を張りあげた。「フリーポート市民よ聞け」 戦場の隅々にまでその声は響き渡った。「この覇王ルーカンの力により、フリーポートに勝利がもたらされた。そして市民諸君よ。我らに仇なす裏切り者たちがこの戦場に姿をみせている。次に諸君の剣を向けるべきは、奴らである。そう、いまこそナイツ・オブ・トゥルースとプリースト・オブ・マーをせん滅する絶好の機会だ。奴らを1人たりとも生きて帰すな!」

「正気か、ドレール卿!」 モンクはルーカンの背中に叫んだ。「残ったオークたちを放っておいてまで、ちっぽけな私怨を優先させるというのか!」

ルーカンは高らかに笑い、兜をかぶった。漆黒の馬にまたがり騎首を廻らせる。“ソウルファイヤー”の切っ先がまっすぐアバター・オブ・トランクィリティに向けられた。「アバターよ、命ながらえただけでも僥倖と思うことだ。余が昔年の怨みを忘れたなどとゆめゆめ思うな。貴様も砂漠に逃げ帰った後は、2度と余の領地に顔を出さぬが賢明だろうな」

モンクは全身の脱力感と戦い、その場に立っていた。「何も変わらぬのか……」 拳を固め、モンクは続く戦いに心を向けた。彼を信じて集まってくれたマーの信奉者たちはいま、命の危険に晒されている。彼らを助けなければならなかった。


アバター・オブ・ストームは戦場を渡り、生き残った味方を探していた。数え切れないほどの人々が命を落としていた。数え切れないほどの者が、かけがえのないものを失っていた。

地面にうずくまるようにして体を揺らしているバーバリアンの女の姿がレンジャーの目にとまった。彼女の顔は泥と涙で汚れきっていた。彼女は死んだ男を抱きかかえ、子どもでもあやすようにゆっくりと体を前後に揺すっているのだった。男の胸には何本もの矢が鎧を貫いて突き立っていた。

「ご婦人。貴女もどこかを怪我しているのですか?」 レンジャーは静かに声をかけた。

バーバリアンの女は顔をあげて言った。「マーベックはオークたちを追撃したの。私はね、言ったのよ。もう私たちの勝ちなんだから。もう追わなくてもいいって。この人は考えもしなかったのよ。敵の弓兵が物陰から狙いをつけてたなんて。きっと、何が起こったかもわからず死んでいったのよ」 がくりとうなだれると彼女は力なくすすり泣いた。

レンジャーはただ黙ってうつむいた。彼女にかけるべき慰めの言葉は見つからなかった。彼女の心の痛みを和らげるすべなどありはしない。遠からずこの世界を去ることになるレンジャーには、哀れなバーバリアンの女をどうしてやることもできない。そして彼女のような人々が、これから訪れるさらなる災厄を生き抜いていかねばならないのだ。

「あんたはとっても勇敢だったよ」 彼女は息をしていない夫に話しかけた。「誇り高いハラスの戦士として戦場で死んだのだもの。いつの日か、戦士たちの殿堂であんたの名前が謳われるようになるんだ。誰もあんたを忘れやしないよ」

心の内側で揺れる感情を押し隠し、レンジャーは愛する者を失った女に別れを告げた。こんなにも代償が高くつくのか、と彼は暗澹とした気持ちでつぶやいた。まだ、すべては始まったばかりだというのに――。


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