エバークエスト2 Wiki
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http://www.playonline.com/eq2/tod/tod_c01.html より

神々の評定[]

「下界の者どもに等しく滅びを。それしか道は残されておらぬ!」 ラロス・ゼックの瞳はいよいよ熾火のような輝きと熱を帯び、そのまなざしが居並ぶ神々を睨め回した。あたかもその瞳に宿る力で、1人でも多くの賛同者を得ようとするかのように。神々が一堂に会してのこの評定は、気が遠くなるほどの歳月のあいだ続いていた。この好機を得て、ラロスはいまいちど神々のあいだで己の地位を確かなものにせんと目論んでいた。

「それはいかにも、行きすぎというものでしょう」 戦神の呼びかけに、きっぱりと異を唱えたのは女神テュナレだった。 「定命の者たちに必要なのは神々の導きなのです。怒りにまかせてむやみに罰をくだすなど、もってのほか。あの者たちに啓示を授けてやり、彼らの内なる霊性を高めてやるのが私たちの務めでありましょう?」


「フン。“彼ら”とは、そなた御自慢のエルフどものことか」 ラロスが苛烈な口調で応じた。 「導きとやらが何をもたらした。奴らはそなたのプレインを土足で汚し、あまつさえ富と力を得んがためそなたの眷属を皆殺しにしたではないか。奴らの手によって、まるで狩りの獲物のようにそなたの分身までもなぶり殺しにされたこと、よもや忘れたわけではあるまい?」 テュナレは不快感をあらわにして、かぶりを振った。 「彼らをそうさせたのは、御身の影響力ではありませぬか。下界の子らが巻き起こす戦乱を喜んで眺めていたのは誰です。それを、彼らが神々の座プレインズ・オブ・パワーを冒すようになったとたん、掌を返したように」

剣呑な空気を察して、その場を収めるようにやんわりと口を挟んだのはブレルだった。 「定命の者たちの振る舞いが彼らの分を越えるものであることは否めまい。といって、わしらが力を傾けて創造した生命を、むざむざ根絶やしにするのも賢明とはいえぬ。そもそも神域を冒すに至った種族は、数えるほどしかないのだ。伸びすぎた庭木の枝を折るように、目に余る者どもを取り除けば済むのではなかろうかのう」

ソルセック・ローは体を揺らして、ブレルの発言を笑い飛ばした。 「今回ばかりは我もラロスに同意せざるを得ぬ。下界の生命は、滅びるべし!」

「そう、はやらずともよいわ」 カジック・シュールの陰気な声が火神の言葉を遮った。 「そのように面倒なことをせずとも手はある。下界における我が影響力の拡大が許されるなら、定命の者どももおとなしくなり、二度と神域を冒すことなどなくなろうぞ。“恐怖”の檻があの者どもを閉じこめるのだ。そうとも、もっと早くからそうすべきだったのだ……」

今度はカラナが顔をしかめて言った。 「愚かな。定命の者たちはその力を増している。ただ1柱の神の力で、彼らを押さえつけられるなどと思わぬことだ。そのような過信ゆえにこそ、我らはかくも追いつめられたのではなかったか、カジックよ? 我らは結束せねばならぬ。ゆえに、誰もが認めるひとつの結論を我らは見いださねばならぬ」

「あいもかわらず腑抜けたことを!」 ラロスが苛立たしげに声を荒げた。 「下界の虫ケラどもは、己の分をわきまえず我ら神々に挑んだ。その報いを与えてやらねばならん!」

「ラロス殿の目には映らぬか。あの小さき者たちが誇りをもって生きている様が」 ミサニエル・マーは揺るぎない声とまなざしをラロスに向けた。 「その尊厳が犯されることは、あってはならぬ。もはや、彼らは神々の自由になる玩具ではない。むしろ、我々の想像すら越えた高みに昇ろうとしているのやもしれぬ」

「ほうほう。高みとな?」 クツクツとイノルークが喉の奥で笑う声が響いた。 「放っておけば、あれらはいずれ妬みと“憎悪”に心を奪われ、互いを貪り合うようになるじゃろう。我らが手を下すまでもない。ただ、一歩さがって高みの見物をしておればよかろう。さすればほどなく、あれらは醜い共食いを始めることじゃろうて」

「残念ながら、それを待つだけの時間は残されておらぬ。憎悪の王子よ」 ソルセック・ローの身体のまわりで炎が跳ね上がった。 「デミ・プレインはすでにこの混迷の影響を受けて、その力を弱めている。中には存在自体が消滅してしまったものすらある。ひとえに、我らの力が弱まったためだ。事態はかくも深刻になっている。いま我らが行動を起こさねば、すべては遅きに失することになろう」

永遠につづくかとも思われた神々の評定に、自身は一言も口をさし挟まず、ただ耳を傾けていたのがクェリアスだった。時の流れが意味をなさぬ神々の集うこの空間にあっても、いささか長く続きすぎた堂々巡りに終止符をうったのは彼女だった。 初めてクェリアスが口を開いたとき、誰もが目をみはり、あたりはしんと静まりかえった。そこに、あどけなくやさしい調子の声が響き渡った。

「そろそろ、折り合いをつけるときだわ」

言葉を区切り、クェリアスは居並ぶ神々を見渡した。 「これから出すあたしの案は、誰にとっても完全な理想とはいえないと思う。絶対に成功する保証があるわけでもない。それでも、みんなが力を合わせてあたしたちと下界の住人のあいだの力のバランスを回復させる方法は、これしかないと思うの」

「もったいつけず早くそいつを教えてくんな。堂々巡りが続いて、オレもいささかうんざりしてたとこよ」 ブリッスルベインは耳をひくりと動かし、せっかちそうにクェリアスを促した。

こくりとうなずくと、小さな女神は先を続けた。 「定命の者が力をつけすぎてしまった……そのことはみんなが認める事実だわ。でも、それを正すのに、血を流さずに済むやりかたがある。そして、あたしたちが失った力を回復する手だても残されてる。ただし代償として、あたしたちは一時的にこの世界で影響力を失ってしまうわ。それでもいいと、みんなが……四元の偉大な輪に座す神々も含めて、みんなが力を合わせるなら、あたしたちはこの事態を乗り越えることができると思う」

「お続けなさい、〈穏やかなるもの〉。あなたの提案を聞いてみることにしましょう」 長く押し黙っていたゼゴニーもまた、クェリアスを促した。

それを受けてクェリアスは彼女の考えを語り始めた。 「定命の者がこんなにも強い力を持つようになったのは、彼らが結束して力を1つに合わせたから。ということは、あたしたちはまず、彼らの結びつきを弱めることを考えなくちゃいけない。具体的には……」

神々の注視の中で、クェリアスは自らの考えを述べた。 説明の終わりを待って、エロリッシ・マーは大きくうなずいた。 「クェリアスのその案なら、わたしも同意できるわ」

「いかにも」 エロリッシの双子の兄、ミサニエルもまたうなずいた。

「おお、それでも構わぬとも、クェリアスよ。どうあろうと、いずれ定命の者どもは互いに争い、滅ぼし合う運命に決まっておろうほどに」 イノルークは口元をゆがめて笑った。

ブレルは顎に手をやり、何事か考えを巡らせているようだった。 「……よろしい。そなたの提案にのってみよう」

〈無貌のもの〉は大げさに肩をすくめてみせた。 「下らぬ。時間の浪費にすぎぬわ。しかし、評決がそうと定めるなら、従おう」

テュナレはどこか悲しげな様子で小さなため息をついた。 「その提案に従って、私も与えられた役割を果たしましょう」

それまで沈黙を守ってきたフェニン・ローが、威厳に満ちた声で告げた。 「我らエレメンタル・プレインの主も、その提案を受け入れよう」

こうして1人また1人と神々はクェリアスの提案に賛意を示した。そうでないものも、反対はせず、ただ黙っていた。

騒然とする議場の中にあって、ラロス・ゼックが何事かソルセック・ローに耳打ちしたのに、クェリアス気づいていた。ラロスの耳打ちに、ソルセック・ローはうなずいていた。 やがてラロスはクェリアスに向かい合うと、彼とソルセック・ローも提案に賛成であると告げた。 「して、その計画はいつ実行に移されるのだ?」

ラロスの問いかけに女神が答える。 「下界の時間にして、7日後。それまでに準備はできそうかしら?」

「充分だ」 冷ややかな声でソルセック・ローが応じた。 テュナレは浮かぬ顔でただ小さくうなずくのみだった。

「合意は得られた」 重々しく平板な響きの声で、何かを読み上げるようにトライビューナルは宣言した。 「これをもって、議了とする」

六槌神の宣言がなされ、神々は議場となった空間から次々と立ち去りはじめた。 神々の姿がまばらになっていく議場の真ん中に残り、クェリアスは落ち着かない様子でまわりに目を配っていた。 彼女は、ラロスがカジック・シュールに近づいて何事か囁く様子を目にしていた。また、ソルセック・ローも同じようにブレル・セレリスに耳打ちをしていた。そのことが、クェリアスには気がかりだった。

「……クェリアス。本当にこれしか道は残されていないの?」 いつのまにか横に立っていたテュナレの問いかけに、クェリアスはやわらかな声で答えた。 「うん。これがいまは最善の道だわ。でも……どうやら、評決に反することを内心で考えてる者もいるみたい。少し気をつけないと、いけないね」

言葉を交わす2柱の女神のもとに、カラナが近づいていった。 「2人とも、計画の先行きに不安を感じておるようだな。わしも、嫌な予感がしてしかたがないわい」

「あなたもそう思うのね」 クェリアスは、青ざめたカラナの顔を見上げて、うなずいた。 「2人とも聞いて。あたしにちょっとした考えがあるの。事態が最悪にならないような、保険をかけなくちゃね……」

クェリアスたちが肩を並べるようにして議場を出ていくと、あとにはラロス・ゼックだけが残された。やがて、ラロスは静かにつぶやいた。 「クェリアスよ、味方を得たか。だが、我もまた同盟者を得た。戦神たる我を出し抜けるか? いまこの瞬間こそが……終局の始まりだ!」


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